食のサロン その47 《江戸前鰻の話③ 落語も鰻も庶民の文化?》
鰻屋の隣に住んでいた男が鰻の蒲焼を焼く匂いをおかずにして白いご飯を毎日食べていた。
ある時ケチで知られた鰻屋の主人が乗り込んできて当店の鰻の匂いでご飯を食べているのだから代金を払えと言う。
言われた男は平然としてお金をチャリンと投げ出して音だけ持って行け。
小噺であるが鰻を焼く匂いは香ばしく食欲をそそり、それだけでご飯が食べられるような気がするのも不思議ではない。
「江戸前の鰻の話」が出て来る古典落語は多くあり同じ「江戸前の鮨の話」が落語の題材に出てこない事に対して対照的である。
落語に出て来る鰻の話をいくつか紹介してみよう。
「鰻の幇間(たいこ)」は幇間(たいこもち)が金のありそうな旦那を見つけて、お得意のよいしょで持ち上げ鰻をご馳走してもらう事になるが、逆に騙されて飲み食いした鰻屋の代金やお土産代まで払わされると言う話。「素人鰻」は演者によって若干話の設定が変わる「鰻屋」と言う落語にもなるが、鰻職人が居なくなって鰻をさばけない店の主人が鰻相手に悪戦苦闘。
やっと捕まえた鰻がにょろにょろと手から逃れようとするのを追いかけて店の外に出て行ってしまう。
何処へ行くのかと尋ねられ「前へ廻って鰻に聞いてくれ」と言う落ちになる。
後生鰻は鰻屋がさばこうとする鰻を、通りかかったご隠居が過分の価格で買い取り川に戻して後生をする。
それに味を占めた鰻屋が何度も繰り返し鰻をご隠居に売り渡す。
仕事をしなくなった鰻屋が、売り渡す鰻が無く代わりに赤ん坊をさばくと言ってご隠居から多額のお金を巻き上げる。
ところが、このご隠居がいつもの鰻のつもりで川に赤ん坊を投げ入れてしまうと言うブラックユーモア的な落ちとなる。
これらの鰻の出て来る話は、江戸っ子が鰻好きであった事は想像できるが、残念ながら美味しそうな鰻は登場しないようである。
当時から庶民には高根の花であったのか落語「たがや」では、主人公の「たがや」が侍相手に「二本差が怖くて町を歩けるか、気の利いた鰻の蒲焼なら串を3本4本も刺してらぁ、そんな鰻食ったこたぁねぇだろう・・・おれも食った事が無い」と情けないたんかを切る。
「子別れ」でも真人間となった熊五郎が自分の遊興癖で分かれる事になった息子に出会い明日鰻屋で鰻をご馳走しようと約束をする場面がある。
真人間になって息子に鰻を食べさせる事が出来るまでになったと言う事を現している。
鰻好きとしては名人文楽や圓生、志ん生に落語の中で美味しそうに鰻を食べる処を演じてほしかったと思うのであるが、残念ながらそのような場面は話の中に存在しない。
落語家の中でも志ん生は鰻好きで知られていたがその息子の志ん朝は鰻を食べなかったと聞いた事がある。
志ん朝が惜しまれて世を去った後に実の姉がそのことに触れた話を記した書物を読んだ。
それによると実は志ん朝は鰻が大好物であったが、落語が上手くなるように誓いを立てて鰻断ちをしていたと言うのである。
稀代の名人であった志ん朝は天から授かった素質を持っていながら稽古に稽古を重ねた努力の人であったと分かり感慨深い。
過日麹町の老舗「秋本」で鰻を食べていると笑点でお馴染みの好楽師匠が一門と思われる落語家を引き連れて入って来て楽しそうに談笑しながら鰻を食べていた。
落語家ならずとも鰻を食べると笑顔になれるのは鰻好きの特権なのだろうか。

                                                       文責:青木知廣
[PR]
by kosakai_blog | 2014-02-27 18:16 | 食のサロン
<< 2014 第29回「お江戸日本... 食のこぼれ話 その52 《雛祭... >>



コラムや社内行事の模様をお伝えします。
by kosakai_blog
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28
カテゴリ
全体
添加物歳時記
調味料のいろは
今月の酒の肴
食のサロン
お江戸日本橋伝承会
社長の呟き
室長の囁き
イベント
社会奉仕
有資格者
アスリート
コーヒーブレイク
MNC(みんなのネットワーク)
ABOの会
その他
伝習会・交流会
食のこぼれ話
知識のとびら
以前の記事
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 04月
2016年 01月
2015年 11月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2007年 11月
2007年 09月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 04月
2007年 03月
2007年 02月
2007年 01月
2006年 12月
2006年 11月
2006年 10月
2005年 10月
2005年 03月
2004年 02月
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
Copyright (C) KOSAKAI CHEMICAL INDUSTRY. All rights reserved.