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食のサロン その11 《江戸前鮨の話 ④》 
日本人は世界中で最も魚を美味しく食べる方法を知っている国民と言えるだろう。
一見単純に見える江戸前鮨は旬の魚をどうしたらよりおいしく食べられるかと言う工夫が沢山されている。
日本人の魚への思いや知識が凝縮された料理と言えるのではないか。
小骨も多く身も軟らかく煮ても焼いても食べにくいコハダを塩と酢で〆て食す。
色が変わりやすいマグロの赤身を醤油で漬け込むヅケ。
たん白なヒラメ等の白身魚を昆布の間に挟み熟成させ旨味を増す昆布締め。
穴子をさばいて煮込みコラーゲン質を軟らかくし、握る直前にさっとあぶり焼きにする。
その頭や骨から取った出汁を煮つめたツメと呼ばれるタレをぬって食べる。
鶏卵にエビや白身魚のすり身を混ぜて焼き上げる卵焼き。
いずれも江戸前鮨の誇るスターたちである。
生きた車えびを水槽からすくって客の見ている前で手際よく殻をむき握り鮨にする、いわゆる海老の踊りと言うパフォーマンス。
飾りつけの笹を包丁で切り鶴や亀等に見えるように細工する。
その包丁裁きを見れば職人の腕もおのずと分かると言う物である。
客の目の前で鮨を握る職人の粋な姿は絵になるものである。
ところで鮨の調理人は何故か職人と呼ばれる。
調理人でも料理人でもなく鮨職人の呼び名が似合うのは江戸前の伝統を受け継ぎ技術のみでなく江戸っ子気質まで伝承されるからであろう。
だいぶ以前の事に成るがTVドラマで「いきのいいやつ」と言う鮨店を舞台にしたドラマがあった。
江戸前の鮨店の店主とそこで修行する事になった若者が織り成す人情ドラマで好評であった。
修行を通して技術ばかりでなく職人の心意気や人の道を学び一人前の鮨職人として独立するところで最終回を迎える。
主人がこの原作者でありモデルとされる店が神田神保町の路地にたたずむ江戸前鮨の名店「神保町鶴八」である。
さしずめ暖簾分けされたこちらも名店として名高い「新橋鶴八」の主人が修行を終えて独立した職人のモデルと言う事になるのだろうか。
現在最も完成された鮨の握り方に本手返しと言う技法がある。
手の中で鮨めしを転がすようにして形作る握り方で見る目も華麗に握り上げると共にふっくらと口に入れると崩れるように握ることが出来る。
この本手返しは安政二年創業の木挽町「美寿志」と言う鮨店で明治時代に完成されたと言う説が伝えられている。
銀座にある「寿司幸本店」はその流れを汲む江戸前鮨店として知られている。
浅草駒形の鮨店「松浪」の主人はこの本手返しの達人で通常熟練者でも5秒は掛かるところ2秒程で華麗に握ると言われている。
小堺化学工業㈱の顧問である成瀬宇平はかって職人の握る鮨を医療に使うMRIで撮影し、握り加減による鮨の美味さを科学的に検証した事がある。
飯粒の間の空気の空間が口に入れたときの握りの食感に違いを及ぼし微妙な握り具合が鮨の味に影響を与える事が分かった。
まさに職人の技を科学的に実証したわけである。

                                                        文責:青木千廣
by kosakai_blog | 2011-04-01 16:40 | 食のサロン
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