食のサロン その23 《江戸前蕎麦の話 ③》
江戸っ子はそばっ食いとして有名である。
箸で手繰った蕎麦の香を楽しむ為どっぷりつゆに浸すような食べ方をしてはならない。
蕎麦猪口に入った辛めのつゆを手繰って持ち上げた蕎麦の先にほんの少し付けてするすると音を立ててすすり込む。
素早く食べなければ蕎麦が伸びてしまう。
ぐちゃぐちゃ噛むような食べ方はもってのほか噛まずに呑み込むように喉越しを楽しむ。江戸っ子の粋な食べ方とされている。
噺家で人間国宝だった五代目「柳家小さん」が講座で「時そば」を演じた。
演じ終わって寄席の近くの蕎麦屋に入ると自分の講座を聞いていた客が大勢蕎麦を食べていた。
客は小さんが店に入って来たことを見ている。
小さんとしては仕方なく見栄を張り他の客の目を意識して江戸っ子よろしく蕎麦をすすった。
見ていた客はさすが小さんと感心したようである。
後に小さんが言うにはこの時の蕎麦は全く美味しくも何も感じられなかったとの話であった。
ある粋な江戸っ子が死ぬ時になって一度でいいから蕎麦をたっぷりつゆに浸して食べたかったと言う笑い話もある。
江戸っ子ならずとも蕎麦好きなら粋な蕎麦の食べ方をしたい。
そんな事を思っていると死ぬ時に後悔する事になりそうである。
もっとも蕎麦の香りを楽しむと言うのは蕎麦の食べ方として間違っていない。
新蕎麦であればなおさらである。
蕎麦屋によっては最初の一すすりか二すすりは蕎麦の香りを味わってもらうよう冷たい水に蕎麦を浸して食べてもらうような演出をする店もある。
本来東京の蕎麦は醤油の多い辛いつゆで食べられる。
そう言うつゆに蕎麦をたっぷり浸してしまっては蕎麦の味が分からなく成るのも事実であろう。
昔のそば通の人は「蕎麦がき」で日本酒を飲んで「もり蕎麦」で締めくくるような事を良くしたものである。
「蕎麦がき」にて使用している蕎麦粉の良し悪しが分かり蕎麦切りでその店の技量が分かると言う事であろうか。
落語の「時そば」は客の男が屋台の蕎麦屋とやり取りをしながら調子良く蕎麦を食べる。
勘定を払う段になり小銭で払うと言いだし途中で時刻を聞き勘定をごまかしてしまう。
それを見ていた他の男が自分もまねて上手くやろうとして逆に多く払ってしまうと言う笑い話である。
この落語には当時の風俗や蕎麦屋の事情が良く盛り込まれている。
二八蕎麦として蕎麦一杯の値段が一六文。
夜鷹蕎麦として営業を始めるおおよその時間と風鈴を付けて屋台を担いた事。
良い蕎麦とされる蕎麦は細く長い物であり添えられる具材もこだわりがある。
使われる器の良し悪しや割り箸に至るまで話の中に当時の事情が読みとれる。
江戸の蕎麦が屋台により普及したのであろう事が想像され蕎麦を食べる事が江戸庶民の楽しみであった事も窺い知れる。
江戸っ子の蕎麦好きはこの当時からDNAに受け継がれているように思える。
                                                       文責:青木知廣
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by kosakai_blog | 2012-03-26 16:24 | 食のサロン
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